東京地方裁判所 平成11年(ワ)15651号 判決
原告 有限会社新友建設
右代表者代表取締役 新堀桂子
右訴訟代理人弁護士 横溝高至
被告 株式会社共同債権買取機構
右代表者代表取締役 小林剛
右訴訟代理人弁護士 河野玄逸
同 川村英二
同 曽我幸男
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一二二五万三三五五円及びこれに対する平成一一年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、不動産競売事件において、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。「本件土地」というときは別紙物件目録一、二を指し、「本件建物」というときは、同目録三を指す。)を買い受け、代金を全額納付した後に本件土地を測量したところ、実際の地積が不動産競売において表示された地積に相当不足していたとして、右代金により配当を受けた被告に対し、いわゆる数量指示売買による担保責任に基づき売買代金の一部返還を請求した事案である。
原告は、本件土地が前記表示より、六九・一八平方メートル不足しているとして別紙計算書のとおり、金一二二五万三三五五円及びこれに対する催告後である平成一一年六月五日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
一 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
1 原告は、被告を申立人とし蕪木土木株式会社(以下「訴外会社」という。)を債務者兼所有者とする本件土地建物についての東京地方裁判所平成九年(ケ)第四三〇四号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)において、平成一一年二月一五日、本件土地建物を代金七八三八万円で買受ける旨の申出をし、同年三月五日、売却許可決定を得て、同年四月一三日までに代金納付をした。
2 被告は、本件競売事件において、平成一一年五月二〇日、金七八三八万円の配当(競売手続費用金二三九万五一三〇円を含む。)を受けた。
3 本件競売事件において、本件土地は登記簿上の地番・地目・面積によって表示され、その表示された地積は合計三六四・七三平方メートルであった。原告が代金納付後測量したところ、本件土地は合計二九五・五五平方メートルであり、前記表示面積に比べ、六九・一八平方メートル不足していた(甲二、八、九、一一、一二)。
4 訴外会社は、平成九年七月一〇日に事実上倒産し、無資力であり、右売買代金の一部返還の支払は不能である(甲四、一三、証人新堀)。
5 原告は、被告に対し、平成一一年六月四日到達の書面により、本件土地建物代金の一部返還として金一二二五万三三五五円を返還するよう催告した。
二 争点
本件の争点は、本件競売事件における本件土地建物の買受がいわゆる数量指示売買として民法五六八条一項、二項、同法五六五条の適用があるかである。
1 原告の主張
本件競売事件は、いわゆる数量指示売買としてなされたものである。すなわち、本件競売事件における物件明細書中には、現状地目「宅地」、形状「ほぼ公図のとおり」、現況「公簿上の記載とほぼ同一」という記載があり、評価書において更地価格を一平方メートルあたり金三四万五〇〇〇円と評価し、これに地積を乗じて土地価額を算定しており、さらに補充の評価書においても、同様に一平方メートルあたりの評価額に地積を乗じた方法により価格を算定している。かかる算定方法は、登記簿上の地積が確保されていることを前提にしているからこそ採用されるものである。本件競売事件において、原告は、現実に物件明細書、評価書に記載された地積が本件土地建物につき確保されていると思っていた。
2 被告の主張
本件競売は、いわゆる数量指示売買としてなされたものではない。すなわち、
(一) 一般に、競売事件では、物件明細書、現況調査報告書、評価書において面積等が記載されているが、これは対象地の特定表示のために過ぎず、実際の土地の面積を確保するためのものではない。本件土地の評価額の算出方法として一平方メートルあたりの単価に地積を乗じた方法によったとしても、これは通常の不動産売買契約においても一般的に取られており、数量指示売買であることの根拠とはならない。
(二) 本件競売事件の評価書においては、「現況も概ね公簿上地積に合致するものと思料される。」と表示されており、「概ね・・思料される。」という表現から、本件土地の地積が必ずしも公簿上の地積に合致するとは限らないことが前提となっている。
(三) 本件競売事件においては、土地二筆と建物一棟の一括競売がなされ、個別の土地の数量(地積)に着目された取引というより、その場所にある建物を含めた一体の不動産という対象不動産の個性に着目した取引というべきである。
(四) 原告は、競売手続など不動産に関する一定の知識を有している専門業者であり、現地確認をして本件土地について認識した上で競落していることからすれば、本件土地についての地積の記載が実際と異なる可能性があることを認識し得たといえる。
第三争点に対する判断
一 民法五六五条所定のいわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量(本件においては土地の面積)を確保するため、その一定の数量を売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいい、土地の売買において当該土地を登記簿記載の地番地目坪数をもって表示したとしても、それだけをもって直ちに売主が右坪数のあることを表示したものと解することはできず、当該売買が数量指示売買であるか否かはその売買におけるその他の諸般の事情をも総合してこれを決するのが相当である。また、この理は同法五六八条一項によって前記法条が適用される担保権の実行としての不動産競売においても同様と解される。
二 そこで、これを本件についてみるに、本件証拠(甲二、八、九、一一ないし一三、証人新堀)によれば、次の事実が認められる。
1 本件競売事件における物件明細書には、現状地目「宅地」、形状「ほぼ公図のとおり」、現況「公簿上の記載とほぼ同一」との記載がある。
本件競売事件の評価書によれば、本件土地の評価の過程として、更地価格を一平方メートルあたり金三四万五〇〇〇円とし、建付減価を一割した上、これに地積を乗じて得られた金額に法定地上権価格として七割を減じて、その評価額を算定している。本件土地の概況については、「現況も概ね公簿上の地積に合致するものと思料される」との記載がある。右評価書には、評価の基本的事項として「競売不動産の市場は、一般の不動産市場と異なり、売主の協力が得られないのが常態であること、事前に物件に立ち入ることができないこと・・等の特殊性があり、評価にあたってはこの特殊性を評価額に反映させる必要がある」との記載がある。
2 本件競売事件における評価書(平成九年一二月一九日付)には、本件建物につき「昭和五六年一〇月一五日新築から約一六年経過。経済的残存耐用年数は約一九年と判定」と記載されている。そして、平成一〇年一〇月一五日付評価書(補充)では、前回評価後の市場性の変動、前回の期間入札・特別売却において買受けのなかった事実が考慮され、これらに基づき、同月一九日、本件土地建物の最低売却価額は一括売却で金七八三八万円(本件土地につき合計一九三八万円、本件建物は五九〇〇万円)と決定された。
3 原告は建設会社であるところ、本件土地建物の買受申出をする前に原告の担当者である新堀立喜が二度に渡り現地を見分した。右新堀の見分時には、本件土地上に本件建物が存在し、本件建物内には占拠者がいたが、右新堀は、本件土地内に入ることをためらい、現実に登記簿上の表示の地積があるか否かを測量したり、関係者から事情調査して確認するなどの調査はしなかった。右新堀は、評価書等に表示されている地積が、現実の地積と同一とまでは思っていなかった。なお、右新堀は本件土地の範囲を誤信したものではない。
三 以上認定した事実に前記前提事実を総合すれば、本件競売事件による原告の土地建物買受は、いわゆる数量指示売買とは認められず、したがって、民法五六八条一項、二項、五六五条の適用がないものと解される。
すなわち、前記認定のように、本件競売事件においては、本件土地の面積は公簿上の表記により表示され、これを前提に評価もされているがごとくではあるものの、評価書や物件明細書の記載には、本件土地の正確な面積を断定してはおらず、したがって、本件土地の実際に有する数量を確保したものとはいえないこと、本件土地評価は、本件土地建物を一体として評価した過程において前記表示面積が参考にされたにとどまり、この数量のみを基礎として最低売却価格が定められたとはいえないこと、本件競売事件においては本件土地建物が一括して売却されているところ、本件建物の価格は全体価格の約七五パーセントを占め、本件土地の価格割合は低いものにとどまること、本件土地の実測面積は表示された面積の約八一パーセントはあり、土地としての同一性が欠けるとまではいえないことなどが指摘でき、これらに照らせば、本件土地建物の買受は、到底数量指示売買とは認められないというべきである。
これに対し、原告は、評価書の評価が面積を乗じてなされていることなどを主張し、また、原告担当者は、本件土地につき買受前において外部からみて地積が不足しているとはわからず、物件明細書等の書類に表示された地積が現実に確保されているものと考えていた、さらに本件土地建物買受の目的は、本件建物を取り壊し更地にして四棟の土地付き建売住宅を建てることだったのにそれが不可能になったなどと主張し、右主張に沿う証人新堀の証言もある。
しかしながら、評価書の評価の点は前述のとおりであって、右主張が数量指示売買と認める決定的な要素とはいえないし、また、原告側がどのような期待ないし目的を有して本件土地建物を買受けたかについては、仮に被告が主張するとおりであったとしても、本件のような競売の事案では、右事情は原則として不動産所有者や債権者さらには執行裁判所にとって明らかではなく、それほど重視されるものとはいえないことは明らかであり、数量指示売買と認めるための決定的な事情とはいえないものと思われる。
結局、原告は、本件競売事件において本件土地建物を現状のまま買受けたもので、本件競売事件における表示面積は、いわゆる土地の特定のための一要素にすぎず、右面積を確保するため表示し売買価格の基礎となったものとはいえず、したがって本件土地の買受けは、いわゆる数量指示売買とは認められない。
四 以上によれば、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判官 菊池則明)
別紙 物件目録
一 所在 東京都練馬区西大泉二丁目
地番 一九六二番二
地目 宅地
地積 二七七・五三平方メートル
二 所在 東京都練馬区西大泉二丁目
地番 一九六二番一二
地目 宅地
地積 八七・二〇平方メートル
三 所在 東京都練馬区西大泉二丁目一九六二番二、同番地一二
家屋番号 一九六二番二の二
種類 事務所
構造 鉄骨造陸屋根三階建
床面積 一階 五・五七平方メートル
二階 一五三・九〇平方メートル
三階 一四五・六二平方メートル
計算書
甲第11号証の評価書(補充)によれば、別紙物件目録一の土地の評価は
24,580,000 ×(1 - 0.4)= 14,750,000円
別紙物件目録二の土地の評価は
7,720,000 ×(1 - 0.4)= 4,630,000円
別紙物件目録三の建物の評価は
建物積算価格と法定地上権価格とに分析され、
(22,960,000 + 75,370,000円)×(1 - 0.4)= 59,000,000円
である。
ところで、土地の地積が不足することは、土地の価格と法定地上権の価格に影響する。
したがって、土地の地積が69.18平方メートル少ないことによる土地の減価額は、
(14,750,000 + 4,630,000円)÷(277.53平方メートル + 87.20平方メートル)× 69.18平方メートル=3,675,893円
また、地積が69.18平方メートル少ないことによる法定地上権の減価額は
75,370,000×(1 - 0.4)÷(277.53平方メートル+87.20平方メートル)× 69.18平方メートル= 8,577,462円
よって、土地の地積が69.18平方メートル不足することによる土地及び法定地上権の減価額は
3,675,893円 + 8,577,462円 = 12,253,355円である。